2022年に入り、マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)も『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』や、その延長の物語になると思われる『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』と、今後のMCUの世界に大きな影響を及ぼすと思われる作品が控えていますが、この2つの作品には共通する”マルチバース(multiverse)“というキーワードがあります。
そこで、この”マルチバース“という言葉がマーベルの作品群においてどのような位置づけにあるのか、今後のマーベルの映像作品においてどのような役割を担っているのかについて、自身へのおさらいも含めてこちらで考察していきたいと思います。
“マルチバース”というキーワードについて
そもそも、MCUにおいてこの”マルチバース“という言葉がキーワードとして目立ち始めたのは恐らく『アベンジャーズ/エンドゲーム』以降の作品ではないかと思うのですが、”マルチバース“を”マルチ“+”(ユニ)バース“として『多元宇宙』を意味する言葉と捉えると、後者の”(ユニ)バース“に関連する言葉は以下の通り、これまでにも数多く使用されていることが分かります。
・マーベル・シネマティック・ユニバース ・ソニーズ・スパイダーマン・ユニバース ・スパイダーマン:スパイダーバース ・スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース (パート1)
では、そもそも何故このような”(ユニ)バース“といった言葉がマーベル映画作品において多用されるのか、という点について掘り下げてみると、マーベルの起源であるコミックにおける概念にたどり着きます。
マーベルコミック史における”マルチバース”
マーベルコミックの物語は”マーベル・ユニバース”という複数の宇宙(アース)で構成されており、それぞれの作中では”それぞれの宇宙における“出来事が描かれています。
私自身、MCUにハマってから入ってコミックにも興味を持ち始めたものの、「ストーリー上でヒーローの後継者に位置づけられると聞いたことのあるキャラクターが、ある作品と別の作品とで異なっている」ことや「ある作品の中で起こった出来事と並行して起こりえるはずのない事象が別の作品で発生している」ことなどがしばしば見られ、正直なところ”どの作品から読み始めればマーベルのストーリーを順を追って理解できるのかが分からない“状態でした。
“これはいったいどういうことか?”とインターネットで調べてみて辿り着いたのが”マーベル・ユニバース”という多元宇宙の考え方で、”それぞれの作品で語られる物語は、矛盾することなくそれぞれの宇宙において起こった出来事である“ということを、このとき初めて認識しました。
もちろん、これまでに刊行された各コミック作品は全てが異なる宇宙(アース)のお話というわけではなく、特定の宇宙(アース)での出来事が複数の作中で連続する物語として描かれる場合もあり、その中には正史に位置づけられる宇宙(アース)も存在しています。
その宇宙は”アース-616“と呼ばれ、ここで描かれる物語がマーベルコミックの中でもメインストーリーに位置づけられるそうです。
その他、この”アース-616“をベースに2000年以降の時代に則した世界観で再構築された”アース-1610“や、スパイダーマンではなくスパイダーグウェンが活躍する”アース-65“など、様々な宇宙が”マーベル・ユニバース”を構成しています。
マーベル映画における”マルチバース”
では”コミックに対して映画はどうなのか?“というと、私もあまり一般的に言及されているところを目にした記憶がないのですが、この”マルチバース“や”宇宙(アース)“といった考え方は決してコミックだけのものではなく、実はMCUや過去のソニー・ピクチャーズによるスパイダーマンシリーズ、20世紀FOXによるX-MENシリーズの映画作品にもコミックとは異なる宇宙(アース)の番号が割り振られ、それぞれの宇宙(アース)で起きた出来事として描かれているようです。
■各映画作品のアース ・アース-199999:マーベル・シネマティック・ユニバースの宇宙(※) (※)2022/5/8追記 これまでアース-199999とされてきたMCUの世界ですが、2022/5/4に公開された『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』にて、コミックの正史であるアース-616と言及されるシーンがありました。MCUの世界は今後アース-616として観るのが正しいのかもしれません。 ・アース-96283 :サムライミ版スパイダーマンの宇宙 ・アース-120703:アメイジング・スパイダーマンの宇宙 ・アース-10005 :映画X-MENシリーズの宇宙
これらの映画は、各作品の映画化の権利を持つ会社が分かれているという非常に現実的な理由から、個々のヒーローの単独映画として観てしまいがちですが、実はこの”マルチバース”の考え方に基づき異なる宇宙での出来事として捉えることで、各社の作品や物語が衝突・干渉することなく、”それぞれのキャラクターがそれぞれの宇宙で活躍する“映画として観ることができます。
“マルチバース”化による今後のマーベル映画の展開について
では「何故ここに来て、マーベル映画作品で”マルチバース”という言葉が強調されるようになったか」について考えてみると、そこには「原作であるマーベルコミックの世界観を踏襲する」という目的以外にも、現実的な映画の世界ならではの事情や戦略が含まれているのではないかと私は感じました。
具体的には、先にも述べた通りマーベルキャラクターの映画化の権利を複数の会社が有している現状において、各社が今後もマーベルの映画作品を展開するにあたり、他社のキャラクター・作品に触れないという選択肢を選ぶのではなく、他社の作品を尊重、時に協調しながら両社の作品を飛躍的に高めあうために、この”マルチバース”という概念を見事に活用するのではないか、と考えています。
『X-MEN』シリーズや『デッドプール』シリーズなどを手掛けた20世紀フォックスは既にマーベルと同じくディズニー傘下となっているため、これらのヒーローは直接的に今後のMCU作品への参戦も期待されますが、スパイダーマンについては現在もソニー・ピクチャーズが映画化の権利を持っており、MCUとは別にSSUという世界観での映画シリーズが今後も計画されています。
現在はマーベルとソニー・ピクチャーズの協力により”一時的に”MCUの世界にスパイダーマンが登場していますが、今週末から公開となる『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』では予告動画からも分かるように、SSUとも異なるソニー・ピクチャーズの過去のスパイダーマン作品のヴィランが合流するというストーリー展開が確定しています。
(各作品の関係性やヴィラン情報は本ブログの『スパイダーマン:ノーウェイ・ホーム』予習のススメにまとめておりますので、そちらもご参照ください)
過去のスパイダーマン作品を、現実的な企業間の権利の事情を踏まえた個別のシリーズ作品として分断するのではなく、”マルチバース”のそれぞれの宇宙において実際に起こった(起こる)出来事として扱い、それらの異なる宇宙のヴィランが本作で一堂に会する物語を描くという、歴史的にも類を見ない方法によって『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』は我々ファンの期待をこれまでにないほどに高めてくれました。
『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』以降の作品においても企業の垣根を超え、スパイダーマンやその他のヒーローが、MCUとSSU、そしてスパイダーバースシリーズなどのそれぞれの宇宙で”マルチバース”という概念の元に、時にクロスオーバーしながら最高の物語を紡いでいってくれることを期待してやみません!!